うたた寝  〜CP別、一考察
 



   
十文字くんVer.



 車内に差し入る夕陽の赤のせいか、それとも、まだ興奮冷めやらずで、ほややんとのぼせたままでいるものか。頬が火照ってぼんやりするし、きっと間違いなく、あちこち萎え切っての浮いた顔をしていると思う。
“………勝てた、か。”
 今朝からのずっと。いやいや、どのチームと当たっても強豪ぞろいの段階へと、皆して上り詰めたその日から。気分はただただ張り詰めてばかりいて。いつだって後のない、所謂“背水の陣”ってな正念場続きで。負ければそこで今シーズンが終わり、クリスマスボウルへの道が否も応もなく閉ざされる。それがトーナメントというものだと、重々判っているつもりだった。ましてや、こちとら蓄積のまるでない身だったし、その点は俺のみならずで。何処に出しても恥ずかしくないほどの“初心者の集まり”な急造チームだ。かてて加えて、この世代にばかり、どれほどの天才児や俊英たちが集まっていることかを、最初の半年、前哨戦の段階でいやってほど思い知らされてた。このまんまじゃあ底辺止まり、それでもいいのかと奮起して。失望と辛酸、劣等感ばかりが垂れ込めるどん底から、垂直の壁へ爪を立てるようにして這い上がって来た。そんな自分らだから、しまいにゃ“勢い”にも力を借りる場面は多々あって。追ってる場合は言うに及ばず、追われてる形勢にあったとしても、ホントにぎりぎり、最後の最後まで、気を抜けない、そりゃあハードな試合が続いてる。
“………。”
 途轍もない強豪を前に、歯が立たない悔しさや強烈なプレッシャーにも責め苛まれながら。強烈な向かい風から顔を背けず、負けるものかと立ち向かい。そうやってずっとずっと張り詰めていた緊張感が、勝敗の確定した瞬間、一気に盛り上がって押し寄せた高揚感に押し流される。体の中に収まり切れない歓喜の情が吹き出すに任せて、なりふり構わず叫んで がなって。ああ、この快感のために、俺ら頑張ってんだなってつくづく思う。
“いや、他にも意地とか何とか、ちゃんとした大義名分はあるけどよ。”
 負けっ放しは趣味じゃねぇ。それに、自分らを強引にアメフトへ引っ張り込んだ肝心な悪魔野郎たちが、それが目的だった夢を叶えねぇでどうするか。もしかして…他を多く望むと相殺し合って叶わないと思うほど、そこまで何もかもを犠牲にしまくって、なりふり構わず切望して。ある意味、立派に不器用な一途さから、甘ったるい友情だの支え合いだのなんか要らねぇよと構えてる悪魔野郎であるのかも? それでの日頃のあの非道ぶりなのかと。引っ繰り返せば、あれほどの切れ者でもそこまで何もかもを放ってかかってやがるのかと。そうと思えば、どれほどの試練かはもっと早くに判ってもいただろにな。それもまた作戦のうちだったなら、癪で癪で笑っちまうほどに。どっぷり嵌まって、もうやめようなんて思ってもねぇ俺らだしな。
“………ああ、なんか。”
 やっぱ疲れたせいだろか、思考が取り留めなさすぎだ。9連覇狙ってて、しかも百年に一人ってレベルの天才が二人もいた。事実上、今年度最強の相手とやり合ったんだもんな。そんなとんでもない敵を何とか振り切って勝ったんだから。持ってたもんは出せるだけ出した後なんだ。逝っちまってても、陶然としてたっても、そいつはしようがねぇだろよ。次は順当に行きゃあ、あの難攻不落の“王城”だってよ。それか、そんな王城を負かした奴らか。どっちにしたって、またぞろ半端じゃねぇ試合になんだろな。

  “眠い、な…。”

 最寄り駅までは まだずんとある。ほんのちょっぴり、寝ちまってもいいよな。気だるくって気持ちがいい。授業中の退屈から来んのとは全然違う眠気が襲う。疲れてんのは勿論のこと。それから、きゅうきゅうに締め付けられてた気持ちが一気にほぐされた反動とが、もう限界ですよって、オレんこと、お手上げ万歳させようとしている。もうもう目許がしょぼしょぼして来てるし。ほら、くっつくみたいに座ってる隣りの奴の温みもよくない。ウィンドブレーカ越し、なのに。何でそんな、体温高いんだお前………って。

  「……………ふにゃ。」

  (うわぁあぁぁぁあぁぁっっっ!!!)

 慌てて自分の口を両手で…は凭れてるこいつを振り払うことになるので反対側の片手だけで。とりあえず“がばちょ”と押さえて塞いで、叫びそうになったのを何とかこらえ。それからそれから。まだ未練がましくも萎えたまんま、下まで降りようとしていた瞼を、頑張れ起きろと叱咤して押し上げる。どんな恐持てのセンセの授業でも、こうまでして起きてようと頑張ったこたぁないぞ、オレ。ああそうだった。今日の、つか、この秋大会中のずっとの功労者。アイシールド21こと、セナ、が、すぐ隣りに腰掛けてたんだっけ。それさえ気づかないでぼんやりしてたほどの憔悴状態だったとは、神○寺戦、恐るべし。
(こらこら)
「………。///////////
 あんま大きく動くとあっと言う間にバランス崩して前へ倒れ込むかも。いやいやそれより、ハッと我に返って起きちまうかも。そんな勿体ないこ…、あ・いやそうじゃなくって。/////// せっかく気持ち良さそうに転寝してんのに、無体に起こすのは可哀想なので。そろそろ・そろぉって、静かに…静かに。葉っぱに留まった蝶々を、間近いところに降りて来たスズメの仔を、驚かせないようにとするかのように。慎重に体の向きをズラして。背もたれとこっちの二の腕の隆起との狭間に、安定よくはまり込むようにって、ちょっとずつ導いて。
“…おおお〜〜〜〜っと。”
 最後の数ミリというところで重心が動いたか、カクンと少しほど、顔が上向いたんで。あわわっ、起きちまう…って焦ったけれど。そのっくらいじゃあ目覚めないくらいの深さで寝入っているものか、そのままくうくうと眠り続けるセナだったので。ホッとするのと同時、

  「………。////////

 ああ、やっぱり見とれっちまう。大の男が、疲れてるってのもあっけど、口開いて何とも締まらねぇ顔になっちまうくらいに。そんくらい可愛いじゃねぇかよ、こら。//////// 軽く合わさってる目許と口許なのがまた、昏々と眠ってるって感じじゃあなくて、やわらかい印象をそのまんまで留めてて。薄く唇の開いた、今にも蕩けそうな。風呂上がりに近い、のぼせたみたいな顔してやがってよ。よっぽど疲れたんだろなぁ。ああ、今日の試合でも、お前、物んの凄げぇ頑張ってたよな。くたくただろから、眠くなって当然だよな。無造作に投げ出され、座席の縁から今にもすべり落ちそうになってる小さい手。分厚いグローブ嵌めてたってのに、やっぱり擦りむいてのものだろか、真新しい絆創膏が痛々しい。こんな小さいのにな。肩だってこんな薄いのにな。あんな格闘家みたいな奴の繰り出す、本格的な手刀とか肘打ちとか、ガンガン決められても怯まないで向かってってて。俺らがパシリにしよって目ぇつけてた、及び腰な奴なんかじゃ、なくなってて。俺ら全員が…あの蛭魔までもが、祈るみたいに最後のパス預けて、こんな小さい奴の背中へ、期待を乗っけて見送ってんだもんよな。勿論、やれるだけのフォローはし尽くして、ぐぐんって後押ししてやってのことだがよ。
「ん…んぅ…。」
 後れ毛の掛かってるおでこか頬が痒くてか。小さい顎とか もぞりと動いて。
「…っ☆」
 このタイミングで起きるんだろかと、こっちは思い切りドキリとしたけど。意識が浮上してまでのことではなかったか、そのまま、すうすう、元通りに静かに寝入ったセナだったりし。はあっと大きな息をつき、思わず胸を撫で下ろして、それから…それから。

  “………かわいいよなぁ。/////////

 大変だった一日が、この安らかな寝顔1つで、全てすっかり ねぎらえてもらえたようで。まだまだ寝ててほしい、起きるな、頼むから。どんな夢、見てるんだ? 次の試合も頑張ろうな。お前、あの高校最強に結構な思い入れがあるみたいだけど。だからこそ、こてんぱんに伸してやろうや。お前へだけじゃあなく、チーム全部を脅威に思うほど、俺らだって頑張るからな?





            ◇



 ちょっぴり窮屈な姿勢のまんま、乗換駅に着くまでのずっと、不自然な態勢を守り続けた、そりゃあ健気なラインマンくんは。

  「…はにゃ?」

 何なら抱えて降りようかという気合いも満々だったのに、次は〜のアナウンスできっちり起きてしまった韋駄天くんへ、胸の裡
うちにてついつい舌打ち。しかもその上、お友達二人にしっかり見届けられてもいたそうで。明日は筋肉痛で七転八倒するかもなんだから、追っかけっこなんてしてないで、ほらほら大人しく帰った帰ったvv(笑)





      〜Fine〜 06.10.20.


  *最近お邪魔している“十セナ”サイト様で展開されてる、
   そりゃあそりゃあ若ゾーな十文字くんに触発されての
   お遊び企画でございましてvv
   一応、原作様の時間軸にてのお話とさせていただきましたが、
   電車で帰った彼らじゃあなかったとか、
   そういう点へのツッコミはどうかご容赦を〜〜〜。

ご感想はこちらへvv**

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